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【瑛里華】「んっ、んん~」

副会長が、少し退屈そうに背伸びをした。

【瑛里華】「この前はあんなに忙しかったのに、今日はほとんどすることが無いわ」

【瑛里華】「もうちょっとバランスとれないものかしらねー」

【孝平】「うちに仕事を持ってくる人は、こっちの事情は知らないからな」

【瑛里華】「郵便局に行ったりすると、窓口が混む日と混まない日のカレンダーがあるじゃない」

【瑛里華】「ああいうのを作っちゃうのは?」

【征一郎】「前もって忙しい日がわかっていれば作れるだろうが」

パソコンに向かって、何かのデータを作っている東儀先輩。

会長は、少し眩しげな目で窓から外を眺めていた。

【伊織】「予測できないトラブルに対応するのも、俺たちの仕事のうちさ」

【瑛里華】「兄さんに正論を言われるとなぜか腹が立つわ」

【白】「何か、前倒しでできるお仕事は無いのですか」

【征一郎】「その考え方は大切だぞ、白」

【白】「はい、兄さま」

【白】「一階の掃除をするというのはどうでしょうか」

【孝平】「一階?」

【白】「ええ。物置のように使われていますよね」

そういえば、体育祭以来、一階の部屋に入ったことはない。

【伊織】「倉庫か」

【伊織】「今の状態は今の状態で味があると思うけどね」

【征一郎】「俺には理解できない味だが」

【孝平】「去年よりはマシにしたつもりです」

【瑛里華】「根本的な解決はほど遠いけどね」

【伊織】「あ、お客さんだ」

監督生棟への階段を上ってくる人影を、目ざとく見つける会長。

【伊織】「じゃ、俺はちょっと出迎えて話を聞いてくるから」

掃除に乗り気じゃない分、急にフットワークが軽くなったようだ。

【瑛里華】「待って兄さん。私も行く」

やることに飢えていた副会長も後に続く。

ばたん

……。

部屋の中には、東儀兄妹と俺が残った。

急に静かになった気がする。

【征一郎】「そういえば……」

パソコンのモニターから視線をこちらに移す東儀先輩。

【征一郎】「先日の門限破りの件だが」

【孝平】「あ……はい」

いきなり『門限破り』と言われては、こちらは悪いことをした立場として話を聞くしかなくなってしまう。

神妙にならざるを得ない。

【征一郎】「一度だけなら、そのことを責めるつもりはない。が……」

【征一郎】「消灯時間を過ぎてから、男子の部屋に男女が集まるというのはあまり褒められたものではないな」

穏やかな、しかし確信に満ちた声。

これはきっと、自分が言っていることに自信がある人の声だ。

【征一郎】「生徒会役員として、他の生徒に範を垂れるべき立場にあることを考えてみてくれないか」

【征一郎】「自分のしていることを、多くの生徒が真似したらどうなるかを」

むぐ。

持って回った言い方ではあるけれど、ストレートに突いてきた。

教師に指導されているような気分になってくる。

【孝平】「あれは……」

【孝平】「あれは、寮長でもあるかなでさんが、転入してきた俺が学院に溶け込めるようにと」

【征一郎】「それ自体はわからないでもない」

【征一郎】「だが、さすがにもう溶け込んだと言ってもいい時期だろう?」

【征一郎】「それに、寮長とはいえ悠木も一人の生徒だ」

【孝平】「あまり遅くなったり、うるさくしたりしないようには気をつけています」

【孝平】「普段は、消灯時間も過ぎないことがほとんどで……」

【征一郎】「最低限、してはいけないことをしていないというだけだ」

くっ……。

やはり、生徒会の懐刀と呼ばれる人に口答えしても無駄なのか。

【征一郎】「もちろん、何がなんでもすべてのルールを守れとは言わん」

【征一郎】「ただ、やはり節度というものはあるべきだろう。そうは思わないか」

【孝平】「は、はい……」

【白】「いいえ、兄さま」

【白】「支倉先輩も、お茶会の皆さんも、きちんと節度は守っていると思います」

【征一郎】「白」

【白】「皆さんとてもよくしてくれますし、同じ学院に通う仲間同士が仲良くなるのはいけないことでしょうか」

【白】「それに何より、楽しいのです」

【征一郎】「む……」

思わぬところから現れた、白ちゃんの援軍。

東儀先輩も、反論できずにいる。

【伊織】「はっはっは、征は相変わらず白ちゃんに弱いな」

【瑛里華】「ただいまー」

そこに、ドアから入ってきた二人。

【征一郎】「……どこから聞いていた?」

【伊織】「門限破り、のあたりから」

【瑛里華】「お客さんかと思ったら、先生からお願い事されちゃって」

【伊織】「そこで、盛り上がってるところ悪いんだけど、征も一緒に来てくれないかと」

【征一郎】「ならすぐに声をかければいいものを」

【伊織】「まあ、そこはそれ」

【伊織】「あとは若い二人に任せて。ほら、行くぞ」

【征一郎】「……」

最後にちらっとこっちを見て、東儀先輩は連れて行かれた。

監督生室に残る俺と白ちゃん。静かになった部屋で、互いに目が合う。

【白】「あ、あの、支倉先輩」

【白】「先ほどは、兄さまが失礼しました」

【孝平】「ああ、いや、別に東儀先輩は失礼なことなんて言ってない」

【白】「でも」

【孝平】「もっともなことさ。こっちが反論できた立場じゃない」

【孝平】「まあ、白ちゃんが援護してくれて助かったけど」

【白】「ふふ、そうですね」

二人で少し笑う。

ふと、言葉が途切れる。

外の陽は少し傾き、黄色みがかって室内を照らしていた。

【白】「……兄さまは、わたしのためを思って言ってくれたのだと思います」

俺もうなずく。

【白】「ただ、まだわたしが頼りなくて一人前だと認められていないので」

【孝平】「白ちゃんだけじゃないさ」

【孝平】「俺も、心配されないくらいにならないとな」

【白】「そんな、支倉先輩まで」

【孝平】「一緒に頑張ろう。な」

【白】「は、はいっ」

なんとなく、共同戦線を張ったようになった俺と白ちゃん。

具体的に何をすれば認められるのかはわからない。

けど、東儀先輩に心配されるような男ではいたくないというのも事実だ。

【白】「では、手始めにこちらの書類を片づけましょう!」

【孝平】「おう」

その後は、二人でしっかりと仕事をした。

先輩たちと副会長が帰ってきた時には、あまりに仕事が進んでいたので、少し驚かれるくらいだった。