FANDOM


今日も監督生棟へ向かう階段を上る。

東儀先輩に一度注意されてからというもの、生徒会の仕事で辛いと思うことがほとんど無くなっていた。

どうすれば認められるのか。

どうすれば心配されなくなるのか。

「これをすれば良い」というわかりやすいハードルがある問題じゃないと思う。

日頃の言動一つひとつ、それこそ箸の上げ下ろしから始まってすべての行動が意味を持つのだろう。

新緑の緑も濃くなり、植物が元気を増す季節だ。

階段の周りも生命力に満ちている。

【孝平】「よしっ」

気合いを入れ直し、石段を踏みしめる。

……。

監督生棟まで、あと20段程度のところで。

白ちゃんが佇んでいた。

【孝平】「白ちゃん」

【白】「あ、支倉先輩」

白ちゃんが振りかえる。

【孝平】「何してるの?」

【白】「ええと……」

何かを言い淀んでいる。

【白】「こ、これを見てください」

気のせいか、少し恥ずかしがっている白ちゃん。

その指さす先を見ると、細長いものが石段の上をうねっていた。

蛇だ。

太さはそれほどでもないが、長さは1メートルほど。

【孝平】「蛇……?」

【白】「はい」

【白】「石段を横切ってるようなので、その……待とうかと思いまして」

【孝平】「なるほど」

ここも山の中だし、蛇くらいは出るか。

横切るのを待とうなんて、白ちゃんらしいというかなんというか。

微笑ましいって感じだ。

しかし、白ちゃんは少しうつむいている。

【孝平】「ん? どうした?」

【白】「いえ、もしかしたら笑われるかもしれないと思ってました」

【孝平】「別に笑わないさ」

【孝平】「それにいい天気だし、外でのんびりしてるのも気持ちいいよ」

【白】「そうですか……」

【白】「良かったです」

にこにこと嬉しそうにしている白ちゃん。

笑わなかっただけで、こんなに喜んでもらえるならお安いもんだ。

……木々の間から、空を見る。

今日もよく晴れていた。

そろそろ気温も上がってきて、初夏が近づきつつあるのを感じる。

【白】「気持ちいい風ですね」

【孝平】「そうだな」

蛇を見ると、急がず、のたのたと前に進んでいる。

【孝平】「白ちゃん、蛇は苦手?」

【白】「ええと」

【白】「あまり得意ではないです」

【孝平】「そりゃそうか」

【白】「小さい頃に、神社で木から蛇が落ちてきたことがありまして」

【白】「ものすごく驚いてしまって、それ以来、ちょっとだけ怖いです」

【孝平】「その神社って、この前話に出た神社だよな」

【白】「ええ、珠津島神社です」

【孝平】「たしか、お祭は東儀さんちが仕切ってるんだっけ」

【白】「そう……なりますね」

気のせいか、一瞬白ちゃんの表情に陰がさした気がした。

【白】「もちろん、多くの方に手伝っていただいた上で、ですけど」

【孝平】「大きい祭なんだろうな」

【白】「そんなに大きくはないです」

【白】「でも、なんていうか……きちんとしたお祭りです」

きちんとした、お祭り?

【孝平】「白ちゃんは、その祭で何をしてるの?」

【白】「あ、あの」

【白】「あまり上手くなくてお恥ずかしいのですが……」

【白】「少しだけ、舞を舞っています」

舞?

舞と言われても、どんなものかピンと来ない。

【孝平】「神様に奉納する踊りだったりとか」

【白】「わたしも、様式など詳しいことはわからないです」

【白】「ただ、兄さまは東儀家に昔から伝わるものだと言っていました」

【白】「東儀家は、昔は代々珠津島神社の神主を務めていたそうです」

【白】「今は、世襲ではなくなっているので、別の方が神主をしてらっしゃるのですが」

【孝平】「そうだったんだ」

そういえば、和菓子屋のお婆さんも『白様』って呼んでたっけ。

島に昔から住んでる人の中では、東儀家はそういう位置づけなのだろう。

【孝平】「それなら、今でも祭を仕切ってるのもわかる気がする」

【白】「わたしは、舞しかできないのですけれど……」

【白】「兄さまはお祭りでも重要な役割を担っているそうです」

東儀先輩が……。

そうか。

言われてみれば、そんな雰囲気もある人だ。

【孝平】「東儀先輩、やっぱりすごい人なんだな」

少し嬉しそうな白ちゃん。

きっと、白ちゃんにとって東儀先輩は、誇らしい兄なのだろう。

【孝平】「そんな人に認められるのは、楽じゃなさそうだけど」

【孝平】「俺たちも、しっかり頑張ろう」

【白】「ええ、そうですね」

東儀先輩は白ちゃんにとっては偉大な存在なんだろう。

だからこそ、一人前に見てもらいたい。

その気持ちはわかる気がする。

……蛇は、いつの間にか横断を終えたらしく、姿を消していた。

【孝平】「じゃ、そろそろ監督生室に行こうか」

【白】「あ、そうですね」

【孝平】「一緒に頑張ろう」

【白】「はい」

新任の生徒会役員同士、まだまだ勉強しなくてはならないことは多い。

石段を踏みしめながら、俺と、たぶん白ちゃんも、決意を新たにした。