FANDOM


//July 13//

日曜日。

今日は、白ちゃんとデートをする日だ。

カーテンを開けて、爽やかな朝日を――

ザアアアア

【孝平】「……」

なんてこった。

この世界に神はいないのか。

吸血鬼はいるのに……。

【伊織】「え? 雨を止ませろ?」

【孝平】「はい」

【伊織】「それは窓の外の世界のこと? それとも君の心かい?」

きらーん

【孝平】「そういう視線は女性に向けてお願いします」

【伊織】「まあ、さすがに天候は変えられないねえ」

【孝平】「ですよね」

【伊織】「せっかくのデートなのにね」

【孝平】「な、なんで知ってるんですかっ」

【伊織】「おっ、ホントにデートなんだ」

【孝平】「……」

くそう、はめられた。

【伊織】「おや、噂をすれば」

【白】「支倉先輩っ」

【白】「あ、伊織先輩、おはようございます」

ぺこり

【伊織】「おはよう」

【白】「あの、どうしましょう……」

【白】「雨が降っています」

【孝平】「そうだな」

【伊織】「おいおい、雨だってデートくらい行けばいいじゃないか」

【孝平】「でも、土砂降りですよ」

【白】「わたしだけなら構いませんが……」

【孝平】「白ちゃんが風邪引いたらどうするんですか」

【白】「あ……」

【白】「そうです、支倉先輩に風邪を引かれたら困ります」

【伊織】「何このバカップル」

【孝平】「いや、真面目に心配してるだけです」

白ちゃんは舞の練習だってあるんだし。

俺とデートして体調を崩したなんてことになったら、東儀先輩に顔向けできなくなる。

【伊織】「ああ、でも街に行くより、寮の方が正解かもね」

【孝平】「なんでですか?」

【伊織】「街に行ったら、征にマークされるかもしれないし」

【孝平】「……」

そういえば、白ちゃんを心配して街まで来てたことがあったような……。

【孝平】「それもそうですね……」

【孝平】「白ちゃん、今日は寮で過ごそうか」

【白】「はいっ」

【伊織】「よい一日を」

ひらひらと手を振られた。

俺の部屋に白ちゃんと二人きり。

外から雨音が聞こえてくる。

【白】「せっかくのデートだったのに、どうして雨なのでしょう……」

【孝平】「天気予報ちゃんと見とけばよかったな」

【白】「晴れの予報でした」

【孝平】「あ、そうなんだ?」

【白】「支倉先輩とデートだと聞いて、調べたんです」

【白】「喜んでいたのに……外れてしまいました」

【孝平】「そっか」

俺と付き合ったことで、白ちゃんが楽しい思いをできるように。

そう思ってたんだけど、雨じゃなあ……。

白ちゃんが、スカートの裾を直した。

お出かけ用の服が、この部屋で浮いている。

【白】「お茶でも、淹れましょうか?」

【孝平】「ああ、ありがと」

どうしたものかな。

話をするだけでもいいんだけど。

もっと、何かないだろうか。

室内とはいえ、デートなんだし。

待てよ?

【孝平】「白ちゃん、ちょっと待っててもらっていい?」

【白】「あ、はい」

廊下に出た。

そして2つ隣の部屋を尋ねる。

【司】「誰だ」

【孝平】「俺だ」

がちゃり

【司】「おう、どうした」

【孝平】「ゲーム持ってるか?」

【司】「TVゲームならある」

【孝平】「貸してくれ」

【司】「ソフトは?」

【孝平】「……女の子でも遊べる物がいい」

【司】「ほう」

にやり

妖しく微笑んで、部屋の中へ消えていく。

【司】「ほれ」

【孝平】「サンキュー」

【司】「この程度じゃ、飯はおごらなくていいぞ」

【司】「じゃあな」

にやり

妖しく微笑んで、部屋の扉が閉まった。

【孝平】「ただいま」

【白】「おかえりなさいませ」

【孝平】「むぅ」

【白】「ど、どうしたんですか?」

【孝平】「今の挨拶に、なぜかじーんとした」

【白】「?」

【孝平】「ちょっと新婚さんみたいだったから」

【白】「あ……」

顔を真っ赤にさせてうつむいた。

頭を撫でたいが、手はゲーム機でふさがっている。

【白】「それ、どうしたんですか?」

【孝平】「司に借りたんだ」

さっそくテレビに接続する。

【孝平】「一緒にやってみない?」

【白】「は、初めてですけど大丈夫でしょうか?」

【孝平】「初めてなんだ?」

【白】「はい、実家にはそういう物はありませんでしたから」

ああ、確かに東儀家にTVゲームは無さそうだ。

東儀先輩もやらなそうだし。

【孝平】「どれか、やってみたいのある?」

【白】「わたしが選んでいいんですか?」

【孝平】「もちろん」

おずおずとソフトに手を伸ばして吟味する。

物珍しそうにパッケージを見ているのが、かわいい。

【白】「あの、どれが簡単なのでしょうか?」

【孝平】「このレースゲームは易しいと思うけど」

【白】「で、では、それで」

緊張した様子で、言った。

ソフトを入れて起動。

2P対戦を選んでみる。

【白】「あっ」

【孝平】「ん?」

【白】「対戦、と書いてありました」

【孝平】「うん」

【白】「支倉先輩と戦うのですか?」

【孝平】「まあ、そうなるね」

【白】「あの、できれば……」

【白】「一緒にしたいです……」

寂しそうにこちらを見つめる。

しかし、同じチームでやる機能なんてないぞ。

【孝平】「あ、じゃあ、こうしよう」

……。

ピ、ピ、ピ、ピーン!

シグナルは赤から青へ。

レースが始まった。

俺はアクセルボタンを押す。

目の前にはカーブ。

【白】「え、えっと、これ? これでいいんですかっ?」

白ちゃんが方向ボタンを連射。

【白】「わっ、わっ、曲がりましたっ」

【孝平】「押しっぱなしでも曲がるよ」

【白】「あっ、ほんとうです、曲がりますっ」

二人で同じコントローラーを操作していく。

近くないとできないので、白ちゃんは俺が胡座をかいた上に座っている。

【白】「あ、今度は左ですね、は、速いです、あ、あっ」

ぴょこぴょこと体を動かして画面に反応する。

女の子の感触が、足の上で跳ねていた。

すこぶる幸せ。

【白】「ひ、左っ……ひだ、りっ……」

白ちゃんの体が左に傾く。

【白】「え!? 右っ、みぎに曲がってっ!」

今度は右へ。

【孝平】「ははは」

必死な様子がかわいくて、思わず笑ってしまう。

【白】「な、なんで笑ってるんですか?」

【白】「あ、あっ、曲がりきれませんっ、あっ、壁がっ」

【孝平】「おっと」

急いでブレーキ。

どかーん

【白】「あっ、あ、あ、ぁ……」

間に合わなかったか。

【白】「爆発しました……」

白ちゃんが目を丸くしていた。

【司】「今度はどうした」

【孝平】「返そうと思って」

【司】「早いな」

【孝平】「酔ったらしい」

【司】「この短時間でか」

【司】「この短時間でか」

【孝平】「ああ」

【孝平】「で、なんか映画とかないか?」

【司】「……待ってろ」

にやり

部屋の中へ消えていく。

【司】「こいつが一番ましだ」

【孝平】「2回も借りに来たし、天丼おごる」

【司】「プライスレスだ」

【孝平】「サンキュー」

がちゃり

【白】「お帰りなさいませ、だ、旦那様」

じーん

【白】「あ、あの、どうして固まってるんですか?」

【孝平】「幸せを噛み締めてたんだ」

【白】「言ってよかったです……」

恥ずかしそうに顔を伏せた。

【白】「あ、それはなんですか?」

【孝平】「映画。一緒に見ようと思って」

【白】「あ……いいですね」

【白】「どんな映画なんですか?」

【孝平】「これ」

タイトルを見せる。

【白】「?」

知らないのか。

【孝平】「一時期話題になったやつ」

【孝平】「戦争物のラブロマンス」

【白】「そうなんですか……楽しみです」

セットして、再生する。

そのまま床に座った。

【白】「……」

白ちゃんが立ったままじっと、俺を見ている。

【孝平】「どうしたの?」

【白】「あの……」

【白】「さっきみたいに座っても、いいですか?」

頬を染めながら、聞いた。

【孝平】「おいで」

【白】「はいっ」

白ちゃんが、嬉しそうに俺の上に座る。

そのまま、二人で画面を見つめた。

……。

物語は佳境を迎えていた。

ラブロマンスには、当然キスシーンがある。

画面では有名な俳優同士が唇を重ねている。

白ちゃんは、俺に体を完全に預けていた。

リラックスしてくれてるのかな。

俺の方は、どきどきしてしまっている。

心音が、白ちゃんに伝わっているかもしれない。

キスシーンを見て、白ちゃんを意識してしまったのだ。

ここで、映画と同じようにキスしてみたらどうだろうか。

【孝平】「……白ちゃん」

【白】「……」

【孝平】「あのさ、キス……しよっか」

【白】「……」

無言のままだ。

映画を邪魔されるのいやなのかな。

顔を覗きこんだ。

【白】「すぅ……すぅ……」

【孝平】「!」

安らかな顔で眠っていた。

【白】「す、すみませんっ、途中で寝てしまうなんてっ」

【白】「しかも、こんな時間まで……」

【孝平】「いや、全然かまわないよ」

【白】「あの、支倉先輩があったかくて、それでつい……」

【孝平】「気にしないで。嬉しかったから」

【白】「え?」

【孝平】「かわいい寝顔、見れたし」

【白】「……ぅ」

【孝平】「もうすぐ消灯だし、今日はもう戻った方がいい」

【白】「あ、はい」

【孝平】「途中まで送ろうか?」

【白】「いえ、その寮内ですから……」

【孝平】「それもそうだな」

【白】「では、失礼しました」

【孝平】「またね、おやすみ」

【白】「おやすみなさい」

//Switch to Shiro's POV//

せっかくのデートなのに、寝てしまうなんて。

昨日、どきどきして眠れなかったせいかもしれない。

支倉先輩は優しい。

雨で少し落ち込んでいたわたしに、気をつかってくれた。

支倉先輩といると、楽しい気持ちになれる。

明日、また会うのが待ち遠しい。

できればずっと一緒にいたい。

でも……。

東儀の掟はそれを許してくれない。

【白】「……」

喉が渇いてしまった。

部屋に戻る前に、何か買っていこう。

あ……。

【征一郎】「……」

兄さまが、いる。

何か、言わなくては。

でも、なんて言えば……。

【征一郎】「……」

兄さまが去っていく。

わたしに気づいていたはずなのに。

昨日、どきどきして眠れなかったせいかもしれない。

//July 14//

放課後、監督生室にちょっと顔を出したあと、白ちゃんとここで落ち合った。

泉が鏡のように、日の光を反射している。

白ちゃんは、少し寂しそうな顔をして言った。

【白】「兄さまと、最近あまりお話をしていないんです」

【白】「兄さまからも、わたしからも」

【白】「必要な用事のあるときしか、話をしなくなってしまいました……」

【孝平】「でも、兄妹ってそんなもんじゃないか?」

【白】「そうなんですか?」

【孝平】「いや……いろんな兄妹がいるだろうけどさ」

【孝平】「白ちゃんたちは、一緒にいる時間がすごく長かったと思う」

【孝平】「だから、今がそんなに異常だってことはないよ」

少しほっとしたような顔をする白ちゃん。

【孝平】「今日は暑いな」

【白】「はい」

【孝平】「木陰に行くか」

二人並んで座れ、しかも木陰になってる場所を探すのには少し手間取った。

でも、並んで座ると改めて白ちゃんと二人きりだという喜びに包まれる。

【孝平】「食堂で、ペットボトルか何か買ってくればよかったな」

【白】「今から行くには遠いですよね」

【孝平】「戻ってくるのが面倒だもんな」

監督生棟からここまでの山道、そして監督生棟と食堂の間の階段を思い出す。

【孝平】「昔の資料見てたらさ、あの噴水から教室棟までの階段『四年坂』って書いてあった」

【白】「四年坂?」

【孝平】「転ぶと、4年以内に死ぬという伝説があったんだってさ」

【白】「え……」

【白】「それは、もしやそういう方がいたとか……」

【孝平】「後期課程は4年たつ前に卒業してるから、真偽は不明」

【孝平】「留年するなよ、って意味があったのかもね」

【白】「あ、なるほど」

純粋に感心したような白ちゃん。

こういう純朴なところが、とてもかわいい。

【孝平】「もう廃れた伝説だけどな」

【白】「でもせっかくですから……」

【白】「そうだ。来年の新入生に配る『108の秘密』に載せたらどうでしょうか?」

【孝平】「それはいいかもしれないな」

【孝平】「白ちゃんも、転ぶなよ」

【白】「ふふ」

【白】「あの階段で転んだら、伝説がなくても大変ですよ」

【孝平】「そりゃそうだな」

木陰に入って、梅雨の合間の厳しい日差しからは解放された。

水面を渡ってくる風は、少しだけ冷気を含んでいる。

山を縁取る木々の葉が風に揺らぐと、山全体が揺れているような錯覚を受けた。

【白】「兄さまと、こんなに会話が少ないのは初めてです……」

白ちゃんがつぶやく。

【孝平】「寂しい?」

【白】「いえ、それは……兄離れをすると誓ったのですから、我慢します」

【白】「それに、支倉先輩がいてくださいますから」

【孝平】「寂しかったら、いつでも言ってくれ」

【白】「はい」

嬉しそうに、微笑んだ。

【白】「でも……」

【白】「このままでは、祭りの舞が心配です……」

【孝平】「東儀先輩と二人で踊るんだっけ」

【白】「はい」

【白】「兄さまと、呼吸が合わないのではないかと……」

呼吸か。きっと繊細な踊りなんだろうな。

【白】「今まで、兄さまの言葉に疑問を持つことはほとんどありませんでした」

【白】「なのに最近、兄さまの言うことがなぜか信じられないんです」

【孝平】「信じられない?」

【白】「はい」

【白】「父さまと母さまなのですが……」

【孝平】「7年前に亡くなったんだよな」

【白】「それが、その……」

【白】「本当はどうなのかなって……」

言ってはいけないことを言ってしまった、というような顔をしてる。

そもそも、その言ってる内容が信じられない。

【孝平】「いや、ちょっと待ってよ」

【孝平】「葬式はしたの? 遺体は見た?」

【白】「お葬式はしましたが……」

【白】「父さまと母さまの遺体は見ていません」

【孝平】「人が死ぬってことは、医者とか警察とか、よくしらないけど死亡診断書とか」

【孝平】「そういうのが必要なんじゃないの?」

【白】「分家の中には警察やお医者様もいるので、なんとかなってしまうのかもしれません」

【孝平】「じゃあ戸籍とかは?」

【白】「それも、同じことだと思います」

【孝平】「もし……本当にそうなら、でも確かめようもないな」

【白】「そうなんです……」

それと、口には出さなかったけど、もし白ちゃんが言ってることが正しいなら……

東儀先輩がやってることは、たぶん何らかの犯罪になるはずだ。

【孝平】「白ちゃんは、なんでそう思ったんだ?」

【孝平】「その、ご両親がまだ亡くなってないんじゃないかって」

【白】「えと……なんででしょう?」

こける。

【白】「なんとなく、としか」

【孝平】「何か証拠があるとかじゃなくって?」

【白】「は、はい」

【白】「すみません……」

どう考えればいいんだろう。

白ちゃんの勘に過ぎない、両親が実は生きているという説。

その証拠はどこにもない。

む……。

【孝平】「あのさ」

【孝平】「白ちゃんの勘を信じられないって言うつもりはないんだけど……」

【孝平】「証拠も何もないのに東儀先輩を疑うのは、ちょっとつらいと思う」

【白】「それは……そうだと思います」

【孝平】「で、何も証拠を探して東儀先輩を追い詰めろとかいう話じゃなくてさ」

【孝平】「直接、東儀先輩に聞いてみるのがいいんじゃないか?」

【孝平】「もし事実がどっちだったとしても、東儀先輩と白ちゃんの間だけの出来事であれば……」

【孝平】「そのあと、どっちに転がっても被害は最小限で済みそうだろ?」

【白】「そう……ですね」

【白】「あとは、わたしが兄さまに……」

【白】「ちゃんと、直接、尋ねることができるといいのですが」

【孝平】「大丈夫」

白ちゃんの頭に、ぽん、と手のひらを置く。

【孝平】「たった二人の兄妹だろ」

【孝平】「それに、俺もいる」

【孝平】「もし白ちゃんがそうしてくれって言うなら、一緒に行くし……」

【孝平】「俺が白ちゃんの代わりに直接東儀先輩に訊いてもいい」

【白】「支倉先輩……」

白ちゃんが、そっと体を俺に預けてくる。

【白】「支倉先輩がいてくれて、良かったです」

俺は、細い白ちゃんの肩をそっと抱きながら、頭を撫で続けた。

//Another view : Iori//

【伊織】「さて、どうしたもんかな」

【瑛里華】「ふぁにが?」

ヨモギ饅頭を食べながら、瑛里華が寝ぼけた相づちを打つ。

【伊織】「気づいてないんじゃないだろうな」

【瑛里華】「ああ、あのことね」

口に残るヨモギ饅頭の餡と野草の風味を、紅茶で流す瑛里華。

その組み合わせにはいささか異議もあるが、個人の好みの範疇ということにしておく。

【瑛里華】「……どうにかするつもりがあるの?」

【伊織】「それを今考えてるんじゃないか」

と口には出してみたものの、積極的に動ける事態ではないのも確かだ。

しかし、支倉君を生徒会役員に引っ張り込むことで、こういった事態になろうとはね。

やってみなくちゃわからないものだ。

ま、わからないから楽しいんだけど。

【伊織】「俺は応援したいな」

【伊織】「めでたいことじゃないか」

【瑛里華】「そうね」

【瑛里華】「うちとのしきたりなんて、守ることはないわ」

【伊織】「寂しいんじゃないか?」

【瑛里華】「まさか」

【瑛里華】「あの子には、好きに生きてほしいもの」

【瑛里華】「何にしても、征一郎さんと白が仲違いして、東儀家がおかしくなっちゃうのは避けたいわね」

【伊織】「おー、まともな意見だ」

【瑛里華】「本気で考えて、本気で言ってるんだから当たり前でしょ」

まあ、そりゃそうだ。

うちだって、東儀家の客分として扱われてきたからこの島の特等席に居場所ができたわけで。

昔ほどではないとは言え、島内ヒエラルキーの頂点にいる東儀家は盤石である方が望ましい。

【瑛里華】「まさかとは思うけど」

【瑛里華】「白かわいさに征一郎さんがキレたりしないことを祈るわ」

【伊織】「んー?」

【伊織】「逆じゃないのかな。むしろ……」

征のやつ、失敗したなぁと思ってるんじゃないかね。

両親のこともあるし、スネに傷持ってるのは征の方だからなあ。

【瑛里華】「むしろ、なに?」

【伊織】「え? むしろなんて言ったかな」

【瑛里華】「言 っ た わ」

【伊織】「記憶にないなぁ」

【瑛里華】「また何か隠してるんでしょっ!」

瑛里華の執拗な追求をかわして、さっさと監督生室を脱出。

空にはぽっかりと月が出ていた。

満月と半月の間くらいの月だ。

さて。

白ちゃんと支倉君はどうするのだろう。

若さ、で突っ走れるだろうか。

どこかで、俺はそれを期待しているのかもしれない。

//Another view ends//

//July 18//

終業式が終わった。

全校生徒が、籠から解き放たれた鳥のように散らばっていく。

部活に走る者あり、寮に帰る者あり、遊びに行く者あり。

そんな人の流れからはぐれ、本敷地へと続く階段を上る。

今日はまた格別暑い。

ここ数日、表面上は生徒会の仕事は順調だった。

9月の文化祭に向けて、全校のあちこちで活動が始まっている。

全体を見渡す俺たち生徒会役員も、今のところトラブルもなく上手くやっていた。

会長と東儀先輩は、その9月末で生徒会役員からは引退。

副会長と俺と白ちゃんには、信任投票がある。

人数が減るので、新人のスカウトも考えたりした方が良さそうだ。

……などという話が「表面上」。

その下に流れる、俺と白ちゃんと東儀先輩の問題は、一歩たりとも進展していない。

【孝平】「ちわーす」

【白】「こんにちは」

副会長も、こちらに軽く手を振ってみせる。

【伊織】「さて、通知票を見せてくれ」

【孝平】「いきなりですね」

【伊織】「俺や征が抜けた後の生徒会を支える人材なんだよ。君は」

【伊織】「その自覚があるかどうかを見る」

【孝平】「自覚があっても能力とか努力とか」

【伊織】「能力を発揮するのも、努力するのも、まず最初に自覚ありきさ」

しぶしぶ通知票を渡す。

会長や副会長のような(文字通り)バケモノと張り合えるような成績ではない。

【伊織】「うん、これくらいなら上等じゃないか」

【孝平】「あれ?」

【孝平】「そんなに良くないですよね」

【伊織】「いやいや。それでもこれだけ取れてれば十分……とは言わないが」

【伊織】「最低限のハードルはクリアしてるよ」

【孝平】「そうですか」

胸をなで下ろす。

案外ハードルは低かったようだ。

【伊織】「ま、物足りないけどね」

【孝平】「上等って言ってたじゃないですか」

【伊織】「いやいやいや、そういう意味じゃなくてね」

【伊織】「支倉君の、生徒会役員としての“ウリ”がほしいなと思ってね」

【伊織】「今だと、君には何か突出したセールスポイントが無いだろう?」

【孝平】「ええまあ」

そんなものが必要なのかどうか、という反論は面倒なのでしないでおく。

【伊織】「なんでもいいんだよ」

【伊織】「学食の超特盛りマウンテンカレーを3分で完食するとか」

【伊織】「指先ひとつで相手をダウンさせられるとか」

【伊織】「ジョン・ケージの『4分33秒』を演奏できるとか」

【孝平】「楽器の前で何もしないだけで、セールスポイントになるんですか?」

【孝平】「てか、前の二つは無理です」

【伊織】「早食いは尾行に役立つよ」

【孝平】「論点がずれてます」

【伊織】「じゃあ全教科で通知票が『1』とか」

【孝平】「進級するなと言うんですか」

いつも通りの監督生室だ。

いつもと違うのは、5人の役員が揃っていないこと。

【瑛里華】「学院ナンバーワンの掃除好きとか、本職のパティシエも逃げ出すお菓子職人とか」

【孝平】「身近にそういう人がいたらいいな、とは思うが」

【白】「洋菓子もいいですが、和菓子もいいですよ」

【孝平】「俺が生徒会の便利屋というポジションを得つつあることがわかった」

【白】「そ、そんなことは」

【瑛里華】「それも一つの道かも」

【伊織】「よし、それで行こう!」

皮肉の通じない人たちである。

今日は、白ちゃんがいる代わりに、東儀先輩がいない。

昨日は逆だった。

仲の良かった頃の二人を思い出すと、仲直りしてほしいと思う。

しかし、その原因が俺にもあると思うと、いたたまれない気分だ。

心なしか、白ちゃんも元気が無いように思える。

もしかしたら、会長がことさらに絡んでくるのも、一つ空いた椅子の存在をかき消すためかもしれない。

【伊織】「じゃ、頑張ってね」

会長が帰り、副会長と二人きりになる。

どうやら、次代を担う二人に仕事が集中するような仕組みになっているようだ。

門限ギリギリになりそうなので、白ちゃんは先に帰している。

【瑛里華】「そっちはどう?」

【孝平】「もうそろそろ終わりそう」

【孝平】「そっちは?」

【瑛里華】「よしっ」

【瑛里華】「今、終わったわ」

会話が途切れ、部屋の中が静かになった。

俺が書類をめくる音が、やたらと大きく聞こえる。

【孝平】「なあ副会長、聞いていいか?」

【瑛里華】「なに?」

【孝平】「白ちゃんと東儀先輩のことなんだけど」

【瑛里華】「うん」

【孝平】「なんとか、仲直りできる方法はないのかな」

「元凶自身が何言ってんの!」と笑われるかな、と思って話しかけた。

【瑛里華】「そうね……」

しかし、副会長は真面目に考えてくれている。

【瑛里華】「私も聞きたいことがあったんだけど、いい?」

【孝平】「ああ」

【瑛里華】「白とは、もう正式に付き合ってるの?」

【孝平】「そう言っていいと思う」

【孝平】「白ちゃんが東儀先輩に報告したそうだし」

【瑛里華】「なるほどね」

【孝平】「白ちゃんは……いろいろ辛そうだ」

【孝平】「この前は、お祭りのことも心配してたし」

【瑛里華】「それは……そうでしょうね」

【瑛里華】「あの二人が仲直りする簡単な方法もあるけど、それは嫌なんでしょ」

【孝平】「ま、まあ、そういうことになるか」

俺と白ちゃんが別れればいいってことだろう。

【瑛里華】「となると、難しそうね」

【瑛里華】「狭い道だわ」

【孝平】「それは、わかっているつもりだ」

【瑛里華】「あ」

【瑛里華】「そういえば……」

【孝平】「ん?」

【瑛里華】「兄さんが言ってたことがあるの」

【瑛里華】「白かわいさに征一郎さんがキレたりしないことを祈るわ」

【伊織】「んー?」

【伊織】「逆じゃないのかな。むしろ……」

【瑛里華】「むしろ……」

【瑛里華】「征一郎さんは、ヘコんでるんじゃないかしら」

【孝平】「えええ!?」

【孝平】「激怒してるってならともかく、ヘコんでる?」

【瑛里華】「そう」

【瑛里華】「あの二人、白が一方的にブラコンだったと思う?」

【孝平】「いや……」

【孝平】「東儀先輩も、けっこうなシスコンだったんじゃないかな」

【瑛里華】「そうよね」

【瑛里華】「互いに、互いの存在を支えにしてきたような面があると思うの」

【瑛里華】「だとしたら……」

【孝平】「東儀先輩も、辛いってことか」

【瑛里華】「ま、推測だけどね」

【孝平】「いや、それでも、暗闇に一筋だけ光がさしてきた……かも」

【孝平】「ありがとな、副会長」

【瑛里華】「あらあら。茶葉なんて買ってきてくれなくていいのよ」

要求された。

【孝平】「お安い御用だ」

【瑛里華】「あと、もちろんお茶菓子も買ってこなくていいからね」

【孝平】「……わかった」

黙って仕事にとりかかる。

……東儀先輩も、辛いんじゃないかという話。

二人が互いに苦しんでいるなら、何か、いい解決方法があるかもしれないな。

前向きに考えていこう。

//July 24//

夏休みに入ると、帰省する生徒などがいるため、寮の人口密度が減った。

当然、大浴場も空いている。

部屋のシャワーで済ませる奴が多いのか、貸し切りになることも珍しくない。

俺と司は、優雅にも朝風呂を楽しんでいた。

【司】「休みの方が早く目が覚めるな」

【孝平】「授業がある方が寝てるのにな。不思議だ」

【司】「帰省しねえの?」

【孝平】「ああ。交通費もバカにならないし」

【司】「海外だったな」

【孝平】「そっちは?」

【司】「こっちも交通費がバカにならないのは一緒だ」

【司】「せいぜい、バイトに精を出すさ」

【孝平】「じゃあこっちは文化祭だ」

【司】「青春だな」

【司】「東儀とは上手くいってんのか」

【孝平】「なんだ急に」

【司】「青春つながりだ」

【孝平】「まあ、ぼちぼちな」

【司】「経験上、そういう奴からは幸せオーラが出てるもんだが」

【孝平】「出てるだろ。ほれほれ」

【司】「や、出てねえな」

【孝平】「そもそも、オーラなんて見えるのか」

【司】「見えない。感じるものだ」

【孝平】「出ないように抑えてんだよ」

【司】「ふーん」

司が、俺の目をのぞきこむ。

【司】「ならいいが」

【孝平】「……すまん嘘だ。いろいろトラブってる」

【司】「仲直りは?」

【孝平】「本人とじゃない。周囲だ」

【司】「三角関係とかか」

俺と東儀先輩で、白ちゃんを取り合ってる図が頭に浮かぶ。

【孝平】「……当たらずとも遠からず」

【司】「ま、上手くやってくれ」

【司】「相談には乗る」

【孝平】「助かるよ」

【司】「そうだ」

【司】「寮長が最近お茶会が少ないって怒ってたぞ」

【孝平】「わかった」

冷えたペットボトルを飲みながら、まぶしい室外に目をやる。

【司】「そろそろバイト行くわ」

【孝平】「んじゃ、俺もどっか行くかな」

【司】「監督生室?」

【孝平】「そっちは昼過ぎからなんで」

【孝平】「適当にその辺をぶらぶらする」

【司】「わかった。じゃな」

【孝平】「おう」

司と別れる。

司の勘の鋭さは侮れない。

が、マイペースで立ち位置がずれない司の存在は、ありがたくもあった。

俺もその点は見習わないと。

──夏休みに入ってから、白ちゃんは一度家に帰った。

その後、寮に戻ってきたり家に帰ったりと忙しそうだ。

まだ、一度も二人きりで会えていない。

こんなに近くにいるのに、その距離がもどかしい。

ちゃーちゃーちゃっちゃー♪

急いで携帯を開く。

白ちゃんが俺に謝っていた。

『今日も、家の蔵の片づけをしています。三日目ですが、なかなか終わりません』

『早く終わらせて、生徒会の仕事をお手伝いしたいのですが……』

『ごめんなさい』

俺も返事を打つ。

『仕方ないさ。頑張れ』

『さっき寮の風呂に入ったら、司と二人で貸し切りだった』

『司は休みの日の方が早起きなんだとさ』

互いに、日常の些細な出来事をメールする。

直接会って話をしたいという想いが募る。

白ちゃんもそうだろうか。

きっとそうだと思いたい。

しかし、今それを溢れさせるのは無意味だ。

互いにその想いを抑えて、日常のやりとりを続けていた。

監督生室での仕事が始まるまでには時間がある。

俺は、ほとんど来たことがない図書館に足を運んでみた。

図書館の主のような司書さんが一人。

あとは、がらんとしていて誰もいなかった。

司書さんに、珠津島の歴史に関する本の位置を尋ねる。

教えられた棚に行ってみると、珠津島史のような本が何冊か並んでいた。

適当に何冊か抜いて、机まで運び、一冊ずつ眺めてみる。

一番活字が小さい『珠津島郷土史』という本が、歴史について詳しかった。

戦後すぐに、潮見大学の助教授が調査したものらしい。

当時はまだ様々なタブーが残っていたようで、資料にあたったり聞き取り調査をするのは大変だったそうだ。

目次を見る。

本は、珠津島が海賊の根城だった時期のことから書かれていた。

江戸末期には外国船への砲台、二次大戦時には海軍の基地があったことなど、通史が書いてある。

第二章から、詳しい郷土史となった。

あちこちに「東儀」の文字が出てくる。

旧珠津川の流れを変えて、今の海岸通りの方に流して上水としたこと。

さらに分岐させて農業に使えるようにしたのが「東儀上水」。

このあたりからは、東儀家が江戸時代から庄屋として島を事実上掌握していたことが窺える。

『東儀家が音頭を取らなかったら、これほどの大土木事業は成し遂げられなかっただろう。』

その章は、このように結ばれていた。

そしてもう一箇所、「東儀」という文字が増えるのは、珠津島神社についての項目だ。

──珠津島神社。

祭神は珠津比売(タマツヒメ)。

元は島の土着神であったが、依代であった巫女が神格化され人格神となった。

神紋は桔梗。

珠津島神社では、明治まで東儀家が代々祭司を務めてきた。

祭神の性格もあって、代々の当主の娘を斎(いつき)として神に仕えさせた東儀家。

そのため東儀家では、女性の方が神に近いと考えられ地位が高い。

東儀家の家紋も桔梗。

明治の太政官布告により神職の世襲が廃止されたことで、東儀家はその地位を失った。

以後は、島の外から派遣された人間が神職を務めるようになる。

大戦終了後は世襲が再び認められ、終戦直前に神職を担当していた家が社家となっている。

しかしこの社家はお飾りで、島民にとってはいまだに東儀家が神職の家柄。

大部分の祭事は今の社家が執り行っているが、古くから伝わる祭事は東儀家の行事として残っている。

特に、秋季例大祭で行われる独特の舞は、神を招くものであり古い信仰形態を残している。

……なるほど。

これが、みんなが言ってた「お祭り」のことだろう。

ここで白ちゃんが舞うということは、俺が思っている以上に、重要な意味を持っているようだ。

そんな白ちゃんと、島の外から来た馬の骨の俺が付き合ってはまずいのではないか。

それとも、古くて閉鎖的な慣習から俺が白ちゃんを外の世界に連れ出すべきなのか。

いろいろ考える。

ぼーんぼーん……

柱にかかった、古そうな時計が音を立てた。

腕時計で確かめると、正確に時を刻み続けているようだ。

……そろそろ、メシでも食ってから監督生室に行くか。

俺は本を棚に戻し、司書さんに会釈をして図書館を出た。

//Another view : Seichiro//

支倉か。

こんなところに来ていようとはな。

……。

支倉が読んでいた本は……これか。

『珠津島郷土史』

なるほどな。

いい線だ。

彼は、彼なりに頑張っているということだ。

それ自体は、評価に値する。

さて。

今年の舞はどうしたものだろうか。

このままだと、白は舞わないかもしれない。

しかし……白に無理矢理押しつけても、反発をするに違いないのだ。

そもそも、押しつけられてやるようなことでもない。

義務感でやるものでもない。

長年積み重ねられてきた歴史に敬意を払い、

その歴史を守ってきた先人の思いに敬意を払って初めて舞えるのだ。

無論、最初はそのようなことはわからずとも良い。

次第に、感じ入り、染み入るものだと思っていた。

しかし。

白はまだそこまで思いが至っていないにもかかわらず、歴史を絶ち切ろうとしている。

白を導くことができなかった俺に問題があるのかもしれないが……。

ともあれ、今年の秋季例大祭をどうするか。

それが問題だ。

時間が解決する問題と、時間では解決できない問題がある。

白か、支倉か、または白に代わる誰かが、その問題の重要性に気づいたときに……

既に守るべきものは絶えていました、という状況ではどうしようもないのだ。

白は、少し内向的な部分を除けば、健やかに育ったと思う。

間違った育て方はしていないと思う。

俺も、父の育て方を見てきたのだから。

父は、厳しい人であった。

学業やスポーツでどんなにいい成績をあげても、褒められたことは一度も無かった。

繰り返し聞かされた言葉。

「東儀家の当主たるもの、自らを犠牲にしても家族と一族を守れ」

学業やスポーツや社会的地位も、結局は一族を守るための手段に過ぎないということだろう。

──父がいなくなり、褒められることも叱られることもなくなった。

それで楽になったかというと、そんなことはまったくなかった。

いろいろと頑張ってきたが、結局、父に導かれてここまで来たのだと思う。

父は大きな目標であり、東儀家当主としての見本なのだ。

そして、今は俺が東儀家の当主である。

東儀一族、家族を守ることが俺の使命だ。

父や母を含め、たくさんの祖先がしきたりに殉じてきた。

自分だけが逃れるわけにはいかない。

俺があっさり逃げ出してしまったら、しきたりに命を懸けてきた祖先の気持ちはどうなってしまうのだ。

──できることなら、白を自由にさせてやりたいという気持ちもある。

しかし、東儀家の人間には、東儀家の人間がやるべきことがある。

白と、なんとかして関係を改善しなければ。

//Aother view ends//

せっかくの夏休みだというのに、白ちゃんと会えない日が続いている。

7月は終わってしまった。

俺に用事が入ったり、白ちゃんに用事が入ったり。

今日は久しぶりにお茶会をすることになっていた。

しかし、やはり白ちゃんは来ることができないそうだ。

……白ちゃんに会いたいという気持ちが、自分でも驚くほど募っている。

会えない日々が、寂しい。

俺、こんなに白ちゃんのこと……

【かなで】「こーへー、来たよーっ」

ベランダから響くこの声は……

【かなで】「おひさーっ」

【陽菜】「こんばんはー」

悠木姉妹の登場だ。

【孝平】「そのハシゴ使うのも、久しぶりですね」

【かなで】「それというのもお茶会が少ないからです、ぶーぶー」

【陽菜】「孝平くんだって、忙しいんだから、仕方ないでしょ」

【かなで】「忙中閑ありっていうでしょ」

【かなで】「こーいうのはね、忙しいからこそやるものなの」

【かなで】「忙しいときの方が、気分転換にもなるしね」

【孝平】「なるほど」

【司】「おう、来たぞ」

玄関からは司が。

今日の面子はこれでそろった。

【かなで】「本日のお茶ですが、アイス緑茶・オ・レにチャレンジします」

【孝平】「へえ」

【司】「涼しげだな」

梅雨も明け、今が一年で一番暑い時期だ。

最高気温も、連日体温といい勝負をしている。

【陽菜】「でも、寮も人が減ったよね」

【陽菜】「うちみたいに実家が近いと、帰ろうって気にはならないかな」

【かなで】「そーだねー」

【孝平&司】「遠すぎても同じだ」

【かなで】「うわ、シンクロ」

【陽菜】「今、きれいにハモったよね」

【かなで】「ハモったハモった~♪」

【孝平】「俺と司がハモって、なにがそんなに楽しいんですかっ」

【かなで】「んー……」

【かなで】「シンクロといえば、男子シンクロナイズドスイミングって無いよね」

【孝平】「話それすぎです!」

【司】「すね毛は見たくないだろ」

【陽菜】「剃ればいいんじゃないかな?」

【陽菜】「あとは、スプレーとか……最近は除毛の技術もいろいろと」

【孝平】「そっちの話を膨らますなっ」

【孝平】「それに、なんかそういう映画があったし、一時期はやってました。男子シンクロ」

【かなで】「男子シンクロはいいよもぅ」

【孝平】「話を始めたのはかなでさんじゃないですか!」

他愛もない会話。

白ちゃんのことについては、誰も触れない。

きっと、皆がなんとなく気を遣ってくれてるんだろう。

そんなちょっとしたことが嬉しかった。

お茶会が終わり、一人になったところで、ベランダに出てみた。

白ちゃんとメールのやりとりをする。

お互いの予定を確認し合うと……次に合えそうなのは、明明後日だ。

『では4日にお会いしましょう』

『楽しみにしています』

そんな、白ちゃんのメールが嬉しくて、顔がにやけるのを止められない。

3日後が、今から楽しみで仕方がない。

会えたら何をしよう。

いや会えるだけで、とても嬉しい。

例えば差し向かいでお茶でも飲みながら、話をするだけでも。

あ。『さゝき』に行って、お茶菓子を買っておこうかな。

でも白ちゃんはきっと買ってくるだろうから、被ってもなぁ。

うーん。

……こんな風に悩むのも、また楽しかった。