いつものように始まった、恒例のお茶会。
その途中で、突然かなでさんが立ち上がった。
【かなで】「第一回! 6月は何して遊ぼうか会議~!」
【かなで】「どんどんぱふぱふー! どんどんぱふー!」
【瑛里華】「6月は何して遊ぼうか……会議?」
【かなで】「いえーす!」
【かなで】「6月ってさ、プール開きぐらいしかイベントがないでしょ?」
【かなで】「しかも、祝日もないしつまんないと思わない?」
【かなで】「そこで、寮主催の愉快なイベントを開催したいわけなんです!」
【白】「イベント、ですか」
【陽菜】「土日にやるの?」
【かなで】「うん、そのつもり」
【かなで】「みんなのスケジュールはどう?」
【司】「土日はバイトがけっこう入ってる」
【孝平】「あー、土日は稼ぎ時だもんな」
【かなで】「こーへーは?」
【孝平】「俺は……」
【瑛里華】「生徒会は、文化祭絡みの仕事が入ってくる頃ね」
【瑛里華】「ねえ? 白」
【白】「は、はい」
【孝平】「土日も?」
【白】「その予定です」
なんと。
俺の知らないところで、勝手にスケジュールが決まっていたらしい。
【かなで】「うーんそっかー。残念だなあ」
【かなで】「まあでもさ、アイデアだけでも協力してくれると嬉しいな」
【かなで】「できれば大勢で楽しめるような企画とか」
【瑛里華】「……そうですね」
【瑛里華】「海浜公園の清掃活動なんてどうですか?」
【瑛里華】「公園はキレイになるし、地域のみんなも喜んでくれるし」
【孝平】「それもいいけど、もうちょっとレジャー感がある方がいいんじゃないか?」
【孝平】「清掃活動、ってなると、構えちゃう人もいるだろうし」
【瑛里華】「うーん、やっぱり?」
【瑛里華】「じゃあこの企画は、改めて詰めることにするわ」
【白】「あ、あの」
【白】「修智館学院七不思議めぐりツアーなんてどうでしょう?」
【かなで】「ほう?」
かなでさんの耳が、ピコンと反応する。
【白】「学院に伝わる七不思議の舞台を、みんなでまわるんです」
【白】「夜、ひとりでに鳴る音楽室のグランドピアノとか……」
【白】「勝手に動き回る、理科室の人体模型……とか……」
【白】「……」
白ちゃんの顔色が、だんだん悪くなってきた。
そりゃもう、見てて不安になるほどに。
【白】「や、やっぱり、今の話は忘れてくださいっ」
【かなで】「えっ、けっこうおもしろそうだったのに」
【白】「その、もう少し暑くなってからの方がいいような気がしましたので」
【かなで】「そっかぁ」
【かなで】「そう言われると、確かに夏向きの企画かもしれないね」
【瑛里華】「うーん」
【かなで】「ね、へーじはなんかない?」
【司】「……サバイバルゲームは?」
【司】「寮を舞台に、エアガンで撃ち合うイベント」
【瑛里華】「却下」
副会長は腕を組んだ。
【瑛里華】「もし怪我人が出たらどうするつもり?」
【瑛里華】「器物破損の可能性だって大いにあるわ」
【かなで】「あ、じゃあさ、弾を使わないでやればいいんじゃない?」
名案とばかりに、かなでさんはぱちんと指を鳴らした。
【孝平】「弾を使わないで、どうやってサバイバルゲームするんですか?」
【かなで】「撃つ時は、自分でバキューンとかズゴーンとか言うの」
【かなで】「で、撃たれた人は自己申告」
【孝平】「自分が撃たれたかどうか、どうやったらわかるんでしょう」
【かなで】「それは……」
かなでさんは首を傾げた。
【かなで】「フィーリング?」
なかなか難易度の高いゲームになりそうだ。
【かなで】「でも、よく考えたら人数分のエアガンなんて揃えられないね」
【かなで】「というわけでへーじ、申し訳ないけど却下」
【司】「へい」
司はあっさりと身を引いた。
「じゃあ指鉄砲でやろう」とかかなでさんが言い出さなくてよかった。
……。
【孝平】「あ、みんなでキャンプするってのは?」
【かなで】「どこで?」
【孝平】「そこらへんで」
【孝平】「すぐそこの、池のある公園とかでもいいけど」
【かなで】「人数分のキャンプグッズ、どうやって集める?」
【孝平】「……」
【孝平】「今の話、忘れてください」
【かなで】「いやいや、もちろんわたしもキャンプとかしたいけどさ」
【かなで】「なにぶん、コッチの方が」
そう言いながら、かなでさんは親指と人差し指で円を作った。
すると陽菜が、ぽんと小さく手を叩く。
【陽菜】「ねえ、バーベキュー大会はどうかな?」
みんなの視線が、陽菜に集まった。
【陽菜】「場所は孝平くんの言った通り、池のある公園でもいいし」
【陽菜】「材料は、海岸通りの激安スーパーを使えば安く済むんじゃない?」
【瑛里華】「なるほど、いいかもしれないわね」
【白】「すごく楽しそうです」
【司】「肉があるなら、参加者も多そうだな」
俺もうなずいた。
まさに、休日にぴったりのイベントだ。
参加したい人も多いことだろう。
【かなで】「それだよそれ! それしかないっ!」
【かなで】「でかした! ひなちゃん!」
かなでさんがパチパチと手を叩き、やがて拍手の輪が広がっていく。
陽菜は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
【陽菜】「あ、ありがとう」
【陽菜】「でも、そんなに褒められるようなことでも……」
【孝平】「いや、褒められるようなことだって」
【孝平】「きっと寮生たち全員から拍手喝采されるぜ」
【陽菜】「あはは、すごい」
【孝平】「よしよし、でかしたぞ」
俺は、ぽんぽんと陽菜の頭を軽く叩いた。
陽菜は子犬みたいに人なつっこい顔で笑う。
【かなで】「……」
【かなで】「ちょっと、そこの若夫婦」
【かなで】「いちゃつくのは二人きりの時だけにしてくれるかなー?」
【陽菜】「お、お姉ちゃんっ」
【孝平】「……誰が若夫婦ですって?」
【かなで】「そりゃー、誰かさんと誰かさんしかいないでしょ」
ニヤニヤしながらかなでさんは言う。
何をわけのわからないことを。
【かなで】「やだなーもう、図星さされたからって怒らないっ」
【孝平】「はいぃ?」
【かなで】「まあまあまあまあ」
【かなで】「えーっと、バーベキューだとやっぱり主役はお肉だよね?」
【かなで】「あとはお野菜と~、シーフードと~」
【白】「焼きおにぎりもおいしいですよ」
【白】「おにぎり作って、その場でお醤油を垂らして焼くんです」
【かなで】「くっはぁ~っ、最高!」
【陽菜】「だったら、事前におにぎりだけ作っておいた方がいいよね?」
【陽菜】「それなら私も手伝えそう」
【かなで】「おおっ、いいねえ~」
【かなで】「ひなちゃんの作るおにぎりはプロ級だもんねっ」
【孝平】「そうなのか?」
俺が尋ねると、陽菜はぶんぶんと首を振った。
【陽菜】「そ、そんなに大したことないの。お姉ちゃんいつも大げさなんだから」
【かなで】「大げさじゃないよ。ほんとだよ」
【かなで】「ひなちゃんって、すっごく料理上手なんだから」
【孝平】「へえー」
確かに、陽菜は昔から何をやらせても器用だった。
いわゆる「お嫁さんタイプ」というやつなのかもしれない。
【孝平】「俺も、陽菜の作ったおにぎり食いたい」
【陽菜】「……え?」
【孝平】「だってプロ級なんだろ?」
【かなで】「そうとも! 楽しみに待っていてくれたまえ」
なぜかかなでさんが、得意げに胸を張る。
【孝平】「かなでさんは?」
【かなで】「へ?」
【孝平】「かなでさんの料理の腕前は?」
【かなで】「……」
さっきまでの威勢はどこへやら、黙り込んだ。
【孝平】「あれ?」
【陽菜】「お姉ちゃんだって、お料理上手だよ」
【陽菜】「ね?」
【かなで】「そ、そりゃまあ、普通にはできるけどさ」
【かなで】「ひなちゃんに比べたら、その、なんていうか」
【かなで】「……ま、まあいいでしょ、わたしのことは!」
かなでさんは豪快に笑い、みんなの顔を見た。
【かなで】「とりあえずバーベキュー大会ってことで、細かいこと進めとくね!」
【瑛里華】「協力できることがあれば、いつでも言ってくださいね」
【白】「わたしもお手伝いします」
【かなで】「うんうん、ありがとう」
そう言って、ウインクをする。
なんだか強引に話を逸らされたような気もするが、まあいいか。