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//Continuation from May 25//

【孝平】「もがっ!」

いきなり背後から鼻と口を塞がれた。

なんだ、誘拐か!?

【??】「だ~れだ?」

明らかにかなでさんの声だ。

かなでさん、と答えようと思った。

しかし、口は塞がれている。

【??】「あれ、わかんないかな?」

【孝平】「もごもががっ! (←かなでさんです、と言っている)」

【??】「何言ってるかわかんないよ?」

なんだこの理不尽な拷問はっ!?

……く、苦しい。

思わず、両手を振り払って振り向く。

【孝平】「ぶはっ」

【孝平】「殺す気ですかっ!?」

【かなで】「誰が?」

かなでさんが後ろを振り向いた。

【孝平】「かなでさんです!」

【かなで】「え!」

【孝平】「驚く意味がわかりませんっ」

【孝平】「後ろから『だーれだ』ってやる時は目を塞ぐのが基本でしょう」

ジェスチャーを交えて講義する。

【孝平】「口と鼻閉じたら答えられない上に死にますよっ!」

【かなで】「だってこーへーは背が高いから」

【孝平】「いや、かなでさんが小さいだけで……」

【かなで】「必殺かなでくすぐりっ」

【孝平】「ぶははははっ」

思わず身をよじる。

脇の下は、やばい。

【かなで】「こーへーが大きいよね?」

【孝平】「は、はい……」

やはり、この人にはかなわない。

何をするか予想がつかん。

【かなで】「あのさ、こーへーは暇なの?」

【孝平】「ええ、まあ」

【かなで】「じゃあお姉ちゃんと買い物しよう」

【孝平】「いいですけど、何を買うんですか」

【かなで】「うーん」

人差し指を口許に当てて考え込む。

【かなで】「こーへー、クッション欲しいって言ってたよね」

そんなこと言ったっけ。

ああ、ずいぶん前にお茶会でそんな話をしたような。

【孝平】「俺の買い物でいいんですか?」

【かなで】「うんっ」

小さな手で、俺の手をつかむ。

【かなで】「さあ、レッツゴーっ!」

かなでさんに引きずられるようにして歩いていく。

そして、雑貨屋の前でぴたりと停止。

【かなで】「お、クッション見っけ」

店の前にあるカゴに、クッションが山積みになっていた。

カゴには「セール品」と書かれている。

ひよこやカエルの形をしたものなど、多種多様な品揃えだ。

【かなで】「こーへー、わたしが選んであげるね」

【孝平】「じゃあ、お願いします」

クッションにこだわりがあるわけでもないので、かなでさんに任せてみる。

【かなで】「どれかな~」

ごそごそ

カゴの中に手を突っ込んでいく。

右手が根元まで埋まった。

【かなで】「ん?」

【孝平】「どうしました?」

【かなで】「これ、すごくいい手触りだっ」

【孝平】「おお」

【かなで】「むむむ」

右手を突っ込んだまま、ふるふると震えている。

【孝平】「なんで小刻みに震えてるんですか」

【かなで】「取れないの……」

【かなで】「こーへー、手伝って」

ちょっと泣きそうな声で言う。

なんか子供みたいだな。

【孝平】「ちょっと待ってくださいね」

上にあるクッションをどけるか。

そう思い、隣のカゴに移していく。

やがて、かなでさんの手が見えてきた。

その手が掴んでいるクッションには――

「俺を踏み台にして強くなれ!」という文字がプリントされていた。

これをケツに敷けというのか。

なんか気軽に座れない気がするぞ。

【かなで】「男気溢れるクッションだね」

【孝平】「うーん」

こだわりはないが、これはどうなのか。

【かなで】「文字が気になる?」

【孝平】「まあ、そうですね」

【かなで】「ふむふむ」

【かなで】「こーへー、ちょっと触ってみて」

【孝平】「は、はい」

【孝平】「うおおおっ!?」

なんだこの手触りは。

癖になりそうだ……。

【かなで】「ね?」

【かなで】「同じ素材で、無地なのを探そうよ」

かなでさんが、嬉しそうに探し始めた。

見事かなでさんが、無地のクッションを見つけ出し、俺がそれを購入。

かなでさんのおかげで、いい品が手に入った。

帰って座るのが楽しみだ。

【孝平】「で、かなでさんは何か買う物はないんですか?」

【かなで】「特にないよ」

【かなで】「あーでも、服をちょっと見たいかな」

【孝平】「じゃあ、そうしましょう」

【かなで】「いいの?」

【孝平】「もちろん」

……。

というわけで、女性服専門店へ。

なんかお洒落な店だな。

今まで、女性向けの店に入る機会なんかなかったので、ちょっと緊張する。

【かなで】「こーへー、これなんかどう?」

かなでさんが、スカイブルーのワンピースを自分の体に当ててみせる。

非常に大人向けの品な気がする。

【かなで】「夏はこんな感じがいいかなあ」

【孝平】「かなでさんにはまだ早いような……」

【かなで】「今年の夏までにはナイスバディーになるもん」

俺は、かなでさんの肩に手を置いて首を振った。

【かなで】「なんで無言で否定なのっ?」

【孝平】「言葉にすると悲しいので」

【かなで】「わたしだって、ちゃんと背は伸びてるんだからね!」

【孝平】「はあ」

【かなで】「なんか気の無い返事だっ」

【かなで】「わたしの身長が伸びて、ナイスバディーになっても甘えさせてあげないよ?」

どんな脅し文句だ。

【孝平】「理想はどれくらいなんですか?」

【かなで】「んー」

【かなで】「こーへーよりちょっと低いくらい」

ぽにっ

かなでさんの帽子を取って、頭に手を載せてみた。

【かなで】「何してるの?」

【孝平】「いや、今どれくらいなのかと思って」

【かなで】「く、くすぐったいよ」

頬を染めて身をよじる。

なんか微妙に色っぽい気が。

これでもし、かなでさんが奇跡的に成長したら……。

うーん。

まったく想像できん。

【かなで】「なんで渋い顔してるの?」

【孝平】「大きくなったかなでさんが、うまく想像できなくて」

かなでさんの頭に、帽子を載せながら言う。

【かなで】「する必要ないよ」

【かなで】「きっと、今年の夏あたりに見れるから」

【孝平】「今年の夏にこだわりますね」

【かなで】「そりゃそうだよ」

小さな胸を大きく張ってみせる。

【かなで】「夏と言えばプールや海で水着になるでしょ」

【孝平】「はあ」

【かなで】「で、わたしは来年卒業なの」

【孝平】「そうですね」

【かなで】「だったら、今年じゃないとダメじゃんか」

唇を少しだけ尖らせて、上目づかいで俺を見る。

【孝平】「……」

これは、俺に見せるためだと言ってるのだろうか。

だとしたら、ちょっと嬉しい。

【孝平】「じゃあ、期待してます」

【孝平】「でも今年の夏じゃなくていいと思いますよ」

【かなで】「そう?」

【孝平】「そんないきなり変わったら怖いですよ」

【かなで】「じゃあ、控え目に成長しよう」

調節できるのかよ。

【かなで】「とりあえず、この服はやっぱ買いだね」

【孝平】「いえ、それは大きくなるまで我慢したほうがいいです」

【かなで】「むー、やっぱりそっか」

二人で、今のかなでさんに似合う服を探すことにした。

かなでさんと寮に戻った時には、もう日が暮れていた。

【かなで】「たっぷり遊んじゃった」

【孝平】「いいんじゃないですか。たまには」

【かなで】「そうだね」

【かなで】「……」

かなでさんが、無言のまま俺をじっと見た。

髪が、風に揺れている。

【孝平】「どうかしましたか」

【かなで】「……大きくなったなーと思って」

【かなで】「んじゃ、またね」

ひらひらと小さな手を振って、寮に駆けてゆく。

俺の手には、大きなビニール袋。

かなでさんの選んでくれたクッションがその中に入っていた。