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//October 29//

いつのまにか、景色はすっかり秋めいていた。

紅葉に染まる山並み。

この学校に来て、初めて迎える季節だ。

【陽菜】「集めた落ち葉は、このゴミ袋に入れてくださいね」

【美化委員たち】「はーいっ」

今日も陽菜は、美化活動に忙しい。

最近、どんどんタフになってる気がする。

委員会と寮長の仕事を両立するなんて、俺だったら無理だ。

……。

文化祭でメイド喫茶をやってからというもの、ますます入会希望者が増えてると聞く。

このままだと、会長の「女子生徒総メイド化計画」も夢ではないかもしれない。

まったく恐ろしい人だ。

会長の手掛けた仕事の中では、三本指に入るほどの功績だろう。

さて、会長の引退した今、副会長がその後を受け継いだ。

要するに、副会長はもう副会長ではなく、会長なのだ。

いまだ呼び方に慣れなくて、苦労している俺。

【女子生徒A】「支倉先輩、さようならー」

【女子生徒B】「さようなら~」

【孝平】「お疲れ」

寮に向かう後輩たちと挨拶を交す。

最近、いろんな人に話しかけられる機会が増えた。

特に、後輩の女子。

会長と一緒にいる機会が多かったせいか、知らぬ間に知名度が上がっていたらしい。

別にモテまくってるわけでもなんでもないが、声をかけてもらえるのは嬉しかった。

【陽菜】「……」

【孝平】「わっ」

気づけば、学生服に着替えた陽菜がそばにいた。

【孝平】「委員会、終わったのか?」

【陽菜】「うん」

【孝平】「もう帰れんの?」

【陽菜】「うん」

【陽菜】「……はぁ」

ため息をついた。

【孝平】「どうした?」

【陽菜】「なんかフクザツ」

【孝平】「は?」

【陽菜】「なーんでもないの」

スカートをひるがえし、陽菜は寮の方向へと歩いていく。

俺もその後を追った。

寮へと続く並木道は、すっかり落ち葉で埋めつくされている。

ときおり吹く風に、肌寒さを感じた。

秋になって、あっというまに冬が来て。

また同じ春を迎える。

そうやって、時間はずっと続いていく。

【陽菜】「冬になったら、談話室でクリスマスパーティーをしようと思うの」

【孝平】「おお、いいな」

【陽菜】「クリスマスツリーを飾ってね」

【孝平】「七面鳥を焼いてな」

【陽菜】「みんなで讃美歌を歌ったりして」

【孝平】「となると、やっぱりケーキは左門堂だよな」

【陽菜】「もう、食べ物も大事だけどね?」

【孝平】「それがメインだろ」

【陽菜】「うーん、やっぱり?」

それから俺たちは、クリスマスパーティーの企画についてあれこれと話し合う。

寮に着くまでの、わずかな時間。

こうやって陽菜と過ごすのが好きだった。

【孝平】「……となると」

【孝平】「今年のクリスマスは、みんなで過ごすことになるんだよな」

【陽菜】「……」

【陽菜】「そんなことないよ」

【陽菜】「24日は、空いてるから」

【孝平】「ふーん……」

俺は、ちらりと陽菜を見た。

陽菜も、ちらちらと俺と見ている。

【孝平】「偶然だな」

【孝平】「俺も24日は空いてるんだ」

【陽菜】「……っ」

【陽菜】「そ、そうなんだ」

【孝平】「生徒会の仕事が入らなければ」

【陽菜】「うぅっ……」

陽菜はがっくりと肩を落とす。

思わず笑ってしまう。

陽菜は以前よりも、ずっと素直に自分の感情を出すようになった。

ストレートな言葉や気持ちに、時々戸惑ってしまうほどだ。

【陽菜】「……一緒に、いたい」

……ぐっ。

【陽菜】「駄目?」

【孝平】「駄目じゃ、ない」

【孝平】「俺だって、陽菜と一緒にクリスマスを過ごしたい」

【陽菜】「……孝平くん」

まっすぐに俺を見つめてくる。

正攻法って、ずるい。

正面から受け止めざるを得ないのだ。

俺は抱きしめたくなる気持ちをなんとか抑え、歩を進める。

【孝平】「なるべく、仕事入れないようにするよ」

【孝平】「ていうか、クリスマス前に全部終わらせる」

【陽菜】「ほんと?」

【孝平】「ほんと。プレゼントも用意するよ」

【孝平】「なんか欲しいものあるか?」

【陽菜】「欲しいもの……」

そういえば、前にアロマオイルが欲しいとか言ってた気がする。

何万円もするようなのは無理かもしれないけど、できるだけ希望に沿ってやりたい。

【陽菜】「今言っていいの?」

【孝平】「うん」

【陽菜】「でも……言ったら孝平くん、困るかも」

【孝平】「えっ」

やっぱり、セレブが嗜むような高級アロマオイルなのか。

俺は少しだけ身構えた。

【孝平】「よし、なんでもいいぞ」

【孝平】「はっきり言ってくれ」

【陽菜】「じゃあ、言うね」

【孝平】「おう」

【陽菜】「……」

陽菜は少し考えてから、頬を赤らめた。

【陽菜】「孝平くんの寝顔、朝まで見ていられる権利」

【孝平】「……」

【孝平】「はい?」

【陽菜】「……孝平くんの寝顔、独り占めしたいの」

【陽菜】「そういうプレゼントじゃ、駄目?」

言ってから、ふいっとそっぽを向く。

風が吹いて、赤い耳たぶがあらわになる。

俺は、前を歩く陽菜の手を握り締めた。

【孝平】「いいよ」

【孝平】「朝まで、ずっと一緒にいよう」

【孝平】「朝になっても、ずっと一緒だ」

【陽菜】「……うん」

【陽菜】「ずっと一緒にいる」

指と指が絡み合う。

風は肌寒いけど、触れた場所はとても温かい。

……。

ホントに、幸せのハードルが低いやつだと思う。

でも。

だからこそ、もっともっと幸せにしてやりたいと思ってしまう。

もう、失うことを恐れずに済むように。

失った記憶を埋めてもなお、あり余る愛情を。

陽菜に捧げたい。

陽菜を幸せにできる権利は、俺だけのものだ。

そして。

俺を幸せにできる権利は、陽菜だけのものなのだろう。

【陽菜】「孝平くん」

【孝平】「ん?」

【陽菜】「……ずっとずっと、好きだったよ」

【陽菜】「ずっとずっと前から、好きだったよ」

【陽菜】「もし、また私が記憶をなくしても……」

【陽菜】「その気持ちだけは、忘れない」

確信を持った口調で、陽菜は言う。

【陽菜】「もし、孝平くんのことを忘れてしまっても……」

【陽菜】「何度も何度も、恋をするからね」

【陽菜】「絶対に……」

俺は、強く手を握り返した。

もし、陽菜が俺を忘れてしまったとしても。

もう諦めない。

大切な人を失わない。

心の深い部分で、つながっていることを信じてる。

そう教えてくれたのは、陽菜自身だから。

……。

これから生まれる、たくさんの記憶。

これまで過ごしてきた時間より、もっともっと長い時間を。

陽菜とともに歩みたい。

ありふれていてもいい。

ささやかでもいい。

ただこうして、笑い合える。

そんな幸せを、二人で積み重ねていきたい。

//Haruna route ends//